研究会活動

テーマ;①永野良佑氏論文「金融商品と自己責任」

テーマ;②「デリバティブ取引の投資勧誘規制」黒沼悦郎教授報告

開催年月日 平成26年10月9日  報告担当:①永野良佑氏論文「金融商品と自己責任」について 吉岡康博弁護士(大阪),②「デリバティブ取引の投資勧誘規制」黒沼悦郎教授報告について  報告者:片岡利雄弁護士(大阪)

報告内容

テーマ①「金融商品と自己責任」(永野論文)について

1.現状分析(業者側当事者の意識について)

  金融庁ルールへの対応を主眼としており民事効への意識は希薄である。/「中央集中型」「本部・営業部店型」の類型があり,後者は前者に比し個々の営業担当者の「トレーディングへの帰属意識」が低く個々のデリバティブ・仕組債について知識不足・理解不足となっている傾向がある。/企業に対する銀行等の優越的地位について司法の場で反映されにくいことが公平さを欠く判示が多い要因の一つとなっている。/デリバティブや仕組債では原価情報が購入の動機に繋がる重要なものゆえ,原価情報の「非対称性」には取引上一定考慮が必要である。/顧客は「専門家」である業者を信頼し取引を継続するが,業者は顧客が取引「経験」を重ねることにより更に高リスクな商品を勧誘する(利益相反)。業者は顧客にこの事実を開示し自らの商品説明の信頼度が低いことを示唆すべき。

2.業者側当事者の意識を形成する枠組み

複雑な行政ルールを遵守すれば十分との意識⇒業法違反と民事ルールを主張すべき。/監督指針は実質的に強制力のあるルールとして機能。問題・論点を事後的に整理し公開されるものゆえ「当時は監督指針に記載がなかった」との業者側の主張は失当。/監督指針個別事項について検討。

①注意喚起文書(現状は顧客の過失を基礎づける意味しかもたない?)

②想定損失

③中途解約・解約清算金(想定損失の理解があれば別個に論じる必要はない)

④ヘッジの有効性(勧誘側が検証すべき)

⑤確認書の受け入れ(形骸化傾向にある)

⑥不招請勧誘との関係(デリバティブ)(ヘッジ目的取引の外枠を限定すべき≠間接貿易),

⑦デリバティブと優越的地位について(実情に鑑み配慮が必要)。

金商法と金販法について。金商法の施行により規制が横断化されたが、マニュアル化・細分化されたため形式化され実効性が薄い。なかでも,

①手数料が開示されないのは極めて不健全であり幅広く開示を義務付けるべき。

②金販法は,民事効が強力であるゆえその適用範囲が限定されており,立証のハードルもあって顧客にとっては使い勝手が悪い点があることを指摘。

3.民事効果について

1 適合性原則/適合性(広義)金商法40条1項 業者側は取引開始基準を設定することで対応(基準不適合=契約締結不可)。当局側は自由取引への介入を回避する態度から適合性(狭義)の確保に消極的。日証協の勧誘開始基準は,取引の可否について規制が及ばない等の点から十分でないと評価。裁判例は,狭義の適合性違反は見られず,法令上の適合性は広義の適合性と捉えられており,結局説明義務に収斂している。なお,保有資産が多いから適合性をみたすとの業者側の主張は失当と指摘する。

2 消費者契約法(監督指針に記載がないため業者側の意識は薄い) 仕組債は「理論的価値が額面を大きく下回るもの」「仕組債を額面で販売することはその『質』について事実と異なることを告げている。」。業者はリスクのない多額の利益(手数料)を得ており、消費者にとり不利益事実に該当⇒不実告知又は不利益事実の不告知の主張が可能(消費者契約法4条)。

テーマ②「デリバティブ取引の投資勧誘規制」黒沼教授報告

 ※「Ⅳ.説明義務の違反 3.仕組債・ノックイン型投資信託」に絞っての報告。
1.判例の分類(説明義務の対象・内容について一般論を展開するもの)

1 ノックイン事由が発生する可能性があること、償還価格が元本割れする可能性があること、原則として途中解約できないこと、のみが説明義務の対象。

2 ノックイン事由が発生する可能性があることに加え、ノックインの場合に参照株価がどの程度下落するとどの程度損失が発生するかの説明を要する(シミュレーション情報の提供)。

3 リスクの定性的な説明やシミュレーション情報の提供では足りず、ノックイン確率の説明が必要。


2.【東京地判H24.11.12】の評価・検討
ノックイン確率や確率的に予想される元本毀損の程度について説明義務を明示的に認めた。


3.リスクを定量的に把握させるための説明
リスクの量を評価するための各要素(ボラティリティ・ノックイン確率ないし確率的に予想される元本毀損の程度)についても説明義務を認める。/判決はデリバティブ賭博観を否定「オプション取引が賭博でなく金融商品である所以は、単なる偶然に賭けるのではなく、その極めて大きなリスクが金融市場において適正に評価され取引がされるからである。」としてリスク評価手法の理解が重要とする。


4.投資者の属性や商品の特徴は説明義務違反の対象に影響するか
「償還元本の期待値」は専門的知識のある顧客でも容易に知ることができない情報ゆえ顧客の特性を区別することなく説明義務の対象とすべき。また,商品特徴のうち元本欠損が生じるおそれを生じさせる取引の仕組みのうち重要部分も説明義務対象とすべき。


5.ノックイン確率、償還元本の期待値の説明
1, 株価等の参照指標のボラティリティ⇒それだけで仕組債の投資判断にとって意味のある情報ではない⇒独自に説明義務の対象とする部分(本判決)はミスリーディング。
2 ,ノックイン確率⇒償還元本の期待値を算定するために必要な情報だがそれだけでは意味のある物ではない。但し、ノックインの可能性が低いという投資者の誤認を正す意味はある。本判決が金販法3条1項1号の内容に含まれるとする点は誤り(同号はリスクの定性的説明に言及するが定量的説明に言及していない。)。
3 ,償還元本の期待値
高クーポン利率の見合いであり投資判断にとって重要な情報であることから説明義務対象となる。但し、本判決が「金融工学上の評価手法を理解させ」ることまでも説明義務対象に含めるのは不要であり妥当ではない。


6.デリバティブの時価評価は説明義務の内容に含まれるとの立場(償還元本期待値の説明義務はこれに繋がる)。反対論は,これを認めることがデリバティブ取引の阻害要因となることを危惧するが,時価と販売価格の差額が明らかとなっても投機目的で取引を行う者は一定数いると予測されるし(宝くじの期待値を例に),当該差額が適正なコスト・利益と考えたうえで取引を行う者も一定数いると予想されるので反対論には賛同できないとする。


7.手数料の開示との関係
手数料開示規制(金商法37条の3第1項4号,金商業府令81条)。手数料の定義(府令74条・支払対価=手数料等+デリバティブの時価)。手数料等の開示規制からデリバティブ取引の時価評価の説明義務も肯定されると解する。手数料を「記載できない場合」の「理由」として,業者側は

①純粋な利益相当額を算出することが難しいこと,

②取引開始後の時価や顧客の信用リスクが変化すること,

③金商業者にとっての手数料の計算方法や内訳は、同業他社との競争上、企業秘密にすべきものであること、

を挙げるが、いずれも合理的な論拠とは言えない。店頭デリバティブ取引において手数料等の開示をしていない実務を改める必要があると指摘。

 

【当日の議論等】 デリバティブ・仕組債においては商品の時価およびコストを把握することが顧客にとっても重要であることを再認識。これらの情報をいかにして証券会社側から引き出すかについての実際上の工夫について意見交換が行われた。