研究会活動

テーマ;青木浩子教授(千葉大学大学院専門法務研究科)ご講演

開催年月日 平成26年5月9日  報告担当:三木俊博弁護士

報告内容

【最新論文とご講演の要旨】 

最近、私たちの多くが取り組んでいる複雑難解な「仕組債」訴訟(*)の判決動向とそれを踏まえた顧客側弁護士の主張立証のあり方について、最新論文を踏まえて、ご講演いただいた。


(*)私たちが取り組んでいるものには「仕組債(券)」のほかに「仕組投信」「仕組預金」などもある。また、これらは株価・為替・金利等のデリバティブ取引を内包した(取り込んだ)債券であるが、私たちは、他に、それらデリバティブ取引(但し経路依存性の複雑難解なもの)をも取り組んでいる。

【青木教授の最新論文と関連論文】

  1. 金融法務事情1984号(H25/12/25)所収:仕組債に関する裁判例の動向と考察
  2. NBL 1005号(H25/07/15)所収:ヘッジ目的の金利スワップ契約と銀行の説明義務-最一平成25年3月7日判決の検討-
  3. 金融法務事情1944号(H24.4.25)所収:ヘッジ目的の金利スワップ契約に関する銀行の説明義務-福岡高裁平23.4.27を契機に-

最新論文とご講演の内容につき、私たち顧客側弁護士の主張立証のあり方に関する要点は、要旨次の通りであった。以下は、ご講演のみでなく、その前提となった最新論文の要約をも含むものである(正確には前掲した論文全文を参照されたい)。

  1. 仕組債訴訟では、EB債訴訟のリーディングケースとなった大阪地判H15/11/4(判例時報1844号97頁以下)が、後の裁判例に強い影響を与えている。同判決は、説明義務の対象事項として、次の3点を挙げた。①評価日に株価が行使価格を下回れば差額分の損失を被ること、②償還時まで売却できず評価損を軽減・回避できないこと、③高金利は不利な株式償還リスクの対価として連動関係にあること。なかでも、③すなわち高金利などの利益と顧客の義務=主に売却したオプションが行使されることによる不利益との連動性の点に重点がある。実際には、連動そのものより発生し得る不利益を顧客が理解できていたか否かが焦点となる。
  2. その後に複雑化した種々の仕組債にかかる訴訟では(その一例としていわゆるEKO債がある)、上記(1)後段の対象事項にかかる説明義務違反の認定に当たり、「業者利潤」およびその前提として「顧客ポジション」や「組成部分の理論価値」さらに「(リスク)評価方法」とその基礎となる「諸数値」(例えば参照銘柄のボラティリティ)並びに「利益相反関係」は、直接事実としてはともかく、間接事実あるいは信義則違反の規範的要件を基礎づける諸事由のひとつとしての意味があるかないか、が問われている。原告側弁護士が問題提起し、それを認容している裁判例も散見される。
  3. 複雑化した仕組債にかかる最近の訴訟においては、①伝統的な判断による裁判体は簡単な例を伴う元本欠損事由と結果とを説明すれば足りる(投資判断可能)とする一方で、②より客観性の高い数値や数式を用いた説明を必要とする裁判体も散見される。後者は(②)は、その旨すなわち「商品構成要素の理論価値あるいは業者利潤の不開示は説明義務違反である」との顧客側弁護士による主張および立証を受容したものと言える。
  4. しかし、これらの情報は、個人投資家にとって、その投資判断に役立つようで実はそうでもない。「使いこなせない」可能性が高いのではないか。従って、これら情報にこだわるより、むしろ、裁判所が金融庁監督指針や日証協自主規制規則を参照して、顧客権利を擁護する局面が増えることが望ましいのではないか。指針と規則では「最大損失額」や「解約清算(中途売却金)金額」を説明することとされているが、こちらの方が(個人投資家にとって)投資判断情報としての「有用性が高い」のではないか。
  5. 近時の米国では、SECのガイドラインにより、公募による仕組債目論見書に「販売価格と仕組債の評価額」を自主開示することが事実上強制されたが、そもそも前記(4)前段の通りであり、米国のこの目論見書は警告や情報が多すぎて却って商品内容を把握し辛い。我が国に直結させることは問題であろう。それに比べて、英国の仕組債販売文書は個人投資家向けに比較的良好な事例と思われる。
  6. 機関投資家のためには「条件確定化分析による値」と「シミュレーション値」とが提供される。彼らは投資の目的・リスク管理意識が明瞭で、或る仕組債と同等のポジションが何かを理解できる(単体商品の場合に比べ把握が劣っていない)ことが前提となっている。それに対し、個人投資家にとっていかなる水準あるいは内容の情報が適切かは難しい。個人投資家に関しては、派生商品評価方法そのもの(デリバティブ評価方法やその参入数値)の説明を極める方向よりも、「当該投資家の財務状態」と「あり得る損害」との関係に意識を向けさせる(引いては「当該商品の適合性を確認させる」)方向に関係者が注力する方が、顧客保護の実を上げ得るのではないか。

青木教授は、私たち顧客側弁護士の主張立証方法として、派生商品評価方法そのもの(デリバティブ評価方法やその参入数値)の説明を極める方向ではなく、また、外国法を安易かつ過大に援用することなく、我が国の監督指針や自主規則に明記された種々の重要事項の「合理性」と「有用性」の高さに留意して、それらにつき一層の活用を進めるよう促された。それに対して、当日の研究会場では、様々、活発な意見交換が行われた。