研究会活動

テーマ;市場から見た仕組み商品訴訟・店頭デリバティブ取引に関する松尾直彦論文と福島良治論文の批判的考察

開催年月日 平成26年3月13日  報告担当: 井上伸弁護士・ 片岡利雄弁護士

報告内容

《テーマ①》「市場から見た仕組み商品訴訟」(仙台大会/桜井健夫先生論文の報告) 

「仕組商品の取引が、市場原理が働かない異様な取引環境において不公正な価格でなされたことを裁判所が知らないまま判決をしてよいのか?」という問題意識のもとに,仕組商品とデリバティブの関係や存在意義,市場機能を分析し近時の裁判例を検証した桜井論文(*)について詳細な報告がなされた。
(*)桜井健夫「市場から見た仕組商品訴訟」東経大・現代法学第26号(2014・2)所収

《テーマ②》「店頭デリバティブ取引に関する松尾直彦論文と福島良治論文の批判的考察」

1「店頭デリバティブ取引に係る時価評価主張への疑問」(松尾直彦論文):金融法務事情  第1976号(2013.8.25)所収

(1)同論文は,「時価評価ベースだと契約時に既に顧客に損失が発生する,これを顧客に情報提供すべき」との主張について特段の事情がない限り説明は不要とし,デリバティブの本質的要素(株価等参照指標の変動により収益や損失が左右されること)を顧客に理解させれば足りる,とする。また,「手数料」についても開示義務はないとする。
(2)しかし,デリバティブ商品は,金融機関等のプロ投資家でも慎重なリスク把握や管理が行われるものであり(シナリオ分析,価格検証,モニタリング,ロスカットルール策定等),一般投資家がこれと同等の対応を行うことは不可能である。このような現状を認識・検討したものであるのか疑問である。

2「店頭デリバティブ取引を取り巻く近時の変化と法務的論点-解約清算金に関する説明義務ほか-」(福島良治論文①):金融法務事情第1961号(2013.1.10)所収

(1)同論文は,時価又は解約清算金を「デリバティブ取引の本質的なこと」として説明義務を肯定しつつも,複雑さゆえ正確な説明は困難であるとする。

そして,平成22年監督指針をふまえ「解約清算金の内容」として「最悪のシナリオを想定した解約清算金の試算額」等を説明すれば足り,計算方法の詳細は説明不要とする。

そして,オプション取引の不公正さの問題は,一部の金商業者が利益追求のために必要以上に難解な商品を提供することが原因とし,そのような場合は他の金商業者へ確認や条件交渉をして対処すべきとする。

店頭デリバティブ取引は、プライシングの詳細な内容はわからなくてもキャッシュフロー等の条件は義務教育レベルの数学知識で理解可能であるし,他の金商業者に相見積もりを依頼することも可能であるという。

(2)しかし,論調として,一般投資家の自己責任を過度に強調するきらいがある。

3「店頭デリバティブ取引のプライシングや手数料の説明に関する補論」(福島良治論文②)  :金融法務事情第1976号(2013.9.25)所収  

(1)同論文は,「プライシング」の説明について,金販法等による法的な義務付けは難しい。

また,「手数料」の説明について,そもそも投資家のリスク判断に必要な重要事項に含まれないし、手数料の計算方法や内訳は企業秘密ゆえ開示義務を認めることは難しいとする。

金商法上は交付書面の記載事項であるが(法37条の3第1項4号),前記の事情のため実務上は「記載できない旨及びその理由」(府令81条))が記載されているという。

なお,手数料が差し引かれ元本欠損状態からスタートすることを明示しなくても,将来のキャッシュフローという投資判断は可能なので,説明義務違反にはならない,とする。


(2)しかし,顧客が株式を購入する際には原則として手数料の明示義務があるのに、店頭デリバティブの取引や債券の購入に際して一般的にその義務がないことは、取引当初の時価を示さないことの免罪符となるべきではない。

業者の側が価格変動や売れ残りのリスクを取らずに利益を上げているケースは多く、この利益は経済実態として株式の手数料と同じだからである。

 

当日の議論等

  1. 販売価格と現在価値について/現在価値は理論価格で算定されるが,あくまでも予測値(=フィクション)にすぎず,必ずしも現実の価格と一致しない。ゆえに,金融工学上の計算結果よりも大きなリスクも孕む。専門家はこれを認識しつつリスク管理の重要性を唱えているが,一般投資家はこのようなリスクを理解しないまま購入している。なので,一般投資家に対しては,これらの事情(評価の不確実性及びリスク拡大の可能性)を認識させたうえ投資判断をさせるべき。なお,現在価値=理論価格とすること自体が適切かという議論もあった。
  2. 「手数料」記載について/法37条の3(府令81条)で定められた「契約締結前交付書面」の手数料等を「記載できない旨及びその理由」について記載された実例を検証すべきとの指摘あり。
  3. 米国の実情との比較/米国SECが,仕組債(公募)につき,理論価格と手数料を目論見書において開示するよう指導したとする,青木浩子(千葉大学)教授論文(*)が紹介された。
  4. 一般投資家の自己責任を強調する論調に対しては,そもそも商品について正確に疑問を持ちうるだけの理解に達していない者があり(むしろ被害事例ではそのようなケースが多い),そのような一般投資家の対処方法をいかに考えるべきかが重要だとする指摘もあった。

    (*)青木浩子「仕組債に関する裁判例の動向と考察」金融法務事情第1984号(2013.12. 25)所収