研究会活動

テーマ;仕組み債のからくりと時価評価

 

報告者:櫻井豊氏 R&Pテック社

報告内容:仕組み債のからくりと時価評価

報告内容(以下の文責は当研究会にあります)

櫻井氏は,銀行・証券会社で,デリバティブの商品開発,リスク管理,トレーディングやデリバティブに関するコンサルタント業務に関与し,市場慣行や規制当局の現在・過去の施策を熟知した方。デリバティブの「プロ」の視点から,仕組み債のからくりや問題点,時価評価などについてご講演いただいた。

 

顧客を錯覚させるからくり 

1 為替リンク債(PRDC債,TARN債等)⇒早期償還確率は思った以上に低い

超長期のものが多い(期間が長い商品は,金融機関がたくさん利益を抜いている。)
フォワード・レートが大幅に円高であるときに販売されることが多い。

2 株式リンク債⇒ノックイン確率は思った以上に高い

 ボラティリティが高いときに販売されることが多い。

3 チューザー型⇒「どちらか悪い方」という効果は思った以上に大きい

複数の参照指標(米ドルと豪ドル/複数の株価など)の中で最悪の指標を採用する。

4 超長期の元本の現在価値⇒「30年後100%元本償還」の実際価値はかなり少ない

 

仕組み債の問題点

1 リスクとリターンの不均衡

多くの場合で元本全額またはそれに近い損失を負う確率は素人が直感するより高い(だから金融機関は儲かる。)

2 大量のオプションの売りを伴うこと

   実態的には大量のオプションの売りである仕組みを素人の投資家には分かりにくくしている。
オプションの売りの問題点は平成17年最高裁判決ご参照。この最判の対象オプション取引は上場されている,期間が短い,プレーンバニラ(*)の「かわいい」オプション。それに比べて,仕組み債は非上場で,期間は長く,「エキゾチック」オプションが組み込まれている。


(*)「単純な」「基本的な」との意味。アイスクリームの単純系・基本形がバニラ(アイスクリーム)であることから由来したと言われる。


流動性も透明性もあるプレーンバニラ商品の方が顧客に適合する場合がほとんど。にもかかわらず,顧客の投資目的に適合しない複雑怪奇な商品に仕立て上げる必要性はどこにあるのか。

3 「30年間塩漬け」などという長期拘束

   30年債=PRDC債やTARN債など
30年債は途中売却ができないことがきちんと説明されているか。

4 価格変動要因

   複雑な仕組み債について,価格変動要因を顧客に分かり易く説明したか。変動要因の名称を列挙するだけでなく,素人投資家にその意味・内容を伝えたか。

5 その他

基礎的な事項について、訴訟では禅問答のようなやり取りとなっていないか。例えば,為替系デリバティブ取引事案において,「フォワード・レート」は「単なる理論値」として理解(誤解)され,あたかも現実の取引ではないように言われることがある。しかし,フォワード・レートに基づくフォワード取引は為替市場で大量の取引がなされており流動性も高い。デリバティブの「価格」は「将来の相場予測」に基づくものではなく,現在における理論的評価である。上がるか下がるかを予想して価格を付けているわけではない。

 

 

仕組み債の時価評価

  1. 金融機関が仕組み債を勧誘する目的は,その(しばしば不当に)高い収益性があることは間違いない。
  2. 時価評価が重要であることはデリバティブ界の取引上の常識。
  3. 複雑な商品の評価にはモデルが必要(*)。複数の合理的な評価方法があり得ること
  4. 時価評価には流動性リスクは考慮されていない。流動性リスクは数値化し難い。

(*)「エキゾチック・オプションなど顧客のニーズに合わせて作られた非標準的な金融商品は“仕組み商品”と呼ばれている。一般にこれらの商品は活発に取引されていないし,金融機関は顧客に請求する価格を決めるためにモデルに頼らなければならない。仕組み商品と活発に取引されている商品の重要な違いに注意することが必要である。商品が活発に取引されていると,その価格にほとんど不確実性がなくなり,モデルはヘッジの効果に影響を与えるだけである。仕組み商品の場合,価格付けもヘッジも正しくない可能性があるのでモデルのリスクがはるかに大きい」
(「フィナンシャルリスクマネジメント」第15章より:ジョン・C・ハル著)