研究会活動

テーマ; 近時の注目するべき判決の検討

報告者:山崎敏彦弁護士(当会会員)
報告内容:【2指標(株価と為替)連動仕組債】

東京地裁平成24年11月27日判決(判時2175号31頁)

(注)ノックイン事由とは(権利)発生条件。対語のノックアウト事由は(権利)消滅条件

報告内容

事案の概要

1 原告の属性、 投資経験
昭和39年6月2日生まれの女性。
金融指標連動仕組債の購入経験あり(しかも、ノックイン事由が発生)。他に、中国ファンド、外債、外国投資信託の購入経験あり。
2 商品の内容
利息と償還(時期と金額)が日経平均と円ドル為替の2つの組み合わせで決まる(変動する)。

  • 利息

最初の3ヶ月は年率5.5%。その後は日経平均株価が当初の68%以上、かつ、円ドル為替レートが当初の82%(別口は83.8%)以上の場合のみ年率5.5%であるが、どちらか一方であれば年率2.0%、両方とも低いと年率0.5%。

  • 元本早期償還

判定日の日経平均株価が当初の100%以上かつ円ドル為替レートが100%以上

  • 元本満期償還(5年満期)

日経平均のノックイン事由も円ドル為替のノックイン事由もない場合、額面金額。日経ノックイン事由のみ生じた場合、日経平均の下落割合分の元本が毀損。為替ノックイン事由のみ生じた場合、ドルの下落割合分の元本が毀損。日経ノックイン事由と為替ノックイン事由の双方が生じた場合、両者の下落割合が複合した割合分の元本が毀損。

裁判所の判断

説明義務(一部)違反のみ認容

 被告は、原告からノックイン事由が生じる見通しを尋ねられたのであるから、原告が本件各仕組債の有するリスクの程度を誤解しないよう、近年の日経平均株価及び円ドル為替レートの状況を的確に説明する必要があったとして、一部分の説明義務違反を肯定
過失相殺4割(類似仕組債でのノックイン経験あり、担当者説明を鵜呑み)

様々な意見交換

  1. 勝訴判決ではあるが、本件判決は(本件仕組債にかかる)商品特性の理解が浅いのではないか。また、金融庁・監督指針を念頭に置いていないのではないか。
  2. 上記ゆえに、説明義務の対象事項および違反態様の認定評価が(言わば)狭小に止まっているのではないか。
  3. 本件仕組債に内在する「相対オプション取引」(性)と複数の金融指標の推移を読取ることの困難さを踏まえれば、少なくとも説明義務の対象事項が(例えば)目先高金利が内在する(オプション起源の)高いリスクの対価であること及び最悪シナリオの最大損失を提示することにまで広がるはず。


報告者:浅野永希弁護士(当会会員)
報告内容:【10倍EB(10株式株価連動仕組債)】

東京地裁平成24年11月12日判決(金融法務事情№1969)

(注)クーポンとは(割引券・引換券ではなく)金利・利息のこと

報告内容

事案の概要

 1 原告の属性・投資経験等
購入当時67歳の男性。京都大学工学部卒業・大阪大学大学院工学研究科修了(工学博士)。一部上場企業の会社代表者(H13年退職)
過去に国内株式、外債、新興国株式投信等の購入経験あり。
2 商品の内容
クーポン年率13.5%(固定)
参照対象株式につき、参照期間中、株価が一度でもノックイン価格(基礎価格の55%)以下になり、かつ、満期償還額決定日の終値が基礎価格を下回った場合には、債券元本でその株式を債券購入時の株価(基礎価格)で購入し、かつ下落した償還時の株価で売却することを義務付け、その売買損失を10銘柄の株式につき累積させて債券元本限度で顧客に負担させる。

裁判所の判断

説明義務(全般)違反のみを認容

クーポンの実質的意味はオプションの対価であるとした上で、専門家たる証券会社は、オプション取引の経験のない一般投資家に対して、金融工学の常識に基づき、他の金融商品と異なるオプション取引のリスクの特性及び大きさを十分に説明し、かつ、そのようなリスクの金融工学上の評価手法を理解させたうえで、ボラティリティ、ノックイン確率ないし確率的に予想される元本毀損の程度などについて、顧客が理解するに足りる具体的でわかりやすい説明をなすべき信義則上の義務があるとして、全般的な説明義務違反を肯定。なお、金融商品販売法5条に基づく損害賠償請求も肯定。
過失相殺25%(但し、購入代金全額に対して過失相殺し、実質的に損益相殺が後に行われている。)

様々な意見交換より

  1. 私たちも利用するデリバティブ取引・分析専門業者「アップフロント社」の取引分析を採用。本件仕組債(10倍EB)の商品特性=リスク特性を正確に把握している:前大阪地裁(現東京地裁)小林久起裁判長ご担当。
  2. なお、本件判決に先行する、同種仕組債(10倍EB)にかかる大阪地裁平成22年3月26日判決(野村証券)をも参照のこと

報告者:吉岡康博弁護士(当会会員)
報告内容:【通貨(円ドル)スワップ取引】

東京地裁平成24年9月11日判決(判時2170号62頁)

(注)「レバレッジ」とは「てこ作用(効果)」のこと:損益が2倍・3倍に増加する仕組みを取っていること。「レシオ」とも言われる。「スポットレート」とは時価相場のこと。

報告内容

事案の概要

1 原告の属性・投資経験等
  平成10年ころから輸入取引の為替変動リスクをヘッジする目的で通貨(円ドル)スワップ取引を行っていた株式会社(月間合計約90万ドル以上の為替取引)。為替デリバティブ取引、仕組債取引、アルミ・スワップ取引の経験あり。為替デリバティブ取引の中には、10年以上の長期にわたるもの、交換金額の増額条件付きのもの、期限前解約条項付きのもの、ギャップ条件付のもの等があった。


2 商品の内容

[取引条件1]

H19.7~H22・6の当初3年間は、1ドル60円の固定レート。

[取引条件2]

H22.7~H34.6の12年間は、①94円≦SR(スポットレート)の場合、銀行から原告へ10万ドル、原告から銀行へ10万×(94×94÷FX)円、②64円≦SR≦94円の場合、銀行から原告へ20万ドル、原告から銀行へ20万×(94×94÷FX)円、③SR<64円の場合、銀行から原告へ30万ドル、原告から銀行へ30万×(94×94÷FX)
☆ドル安(円高)に推移すると「2倍」「3倍」あるいはそれ以上のレバレッジがかかる

[担保条件]

  時価評価額のマイナス分が預金枠(4億円)を超過すれば超過分を担保として預託する。本件事件での具体的事実経過としては、追担保合計7.33億円が発生し、中途解約時には時価評価額マイナス22億円となり、23.5億円の解約精算金支払義務が発生した。但し、約7034万円の利益あり。


[その他]
期限前自動解約条項あり(段階方式):仕組債の早期償還条項と類似したもの。

裁判所の判断

説明義務(一部)違反のみ認容

 時価評価額が原告の被告銀行に対する担保差入額の基準とされ、また、その取引期間中の精算が行われるべき場合には、通常その基準とされる。そのことからして、本件取引の時価評価額について、その変動要素の具体的内容も含め、原告にその変動によるリスクの有無及び程度を具体的に説明する義務を負っている。しかし、被告銀行は本件取引の時価評価額がいかなる要因によって具体的にどのように変動するか等を説明していない(時価評価額は、実勢レート・ボラティリティ・日米の金利差の影響で変動するという形式的・抽象的な説明のみ)として、一部分の説明義務違反を肯定
過失相殺7割。

様々な意見交換より

  • レバレッジ効果によりドル安(円高)進行過程で原告損失=被告利益は2倍3倍(或いはそれ以上)に拡大する。期限前自動解約条項によりドル高(円安)進行過程では被告損失=原告利益は少額範囲に限定される。その点で原告=顧客側に不利で被告=銀行側に有利に仕組まれていると言える等、本件判決が認定判示する担保差入額(時価評価額)の算定基準の説明方法の他、商品特性・リスク特性そのものにも問題点がある。
  • 通貨スワップ取引(=通貨オプション取引)の全般的な説明義務と同違反を認容したものとして、大阪地裁平成24年4月25日判決(日興証券)があるので参照のこと。