研究会活動

テーマ;「ソウル中央地方法院KIKO通貨オプション」判決

報告者:吉岡康博弁護士
報告内容:ソウル中央地方法院KIKO通貨オプション判決
(説明義務違反・過失相殺3割(ただし一部請求のため全額認容)

報告内容

事案の概要

 原告は、半導体を設計・製造して販売するコスダック上場会社であり、2007年の売上高は約1185億ウォン(1ウォン≒0.1円)、営業利益は約81 億ウォンであった。被告は銀行である。原告は、最大の取引先であるサムソンが、2007年から米ドルで決済することにしたため、売上高の97.5%が米ド ルで支払われるようになり、為替ヘッジの必要性が生じた。
原告は、被告他3行との間で、合計11本のKIKO通貨オプション契約を締結し、本件契約は最後の1本である。なお、KIKOとは、Knock-In Knock-Outの頭文字を取ったもので、ノックイン条件とノックアウト条件を付加した通貨オプション契約である。基本的な仕組みは、輸出企業が、銀行 からプットオプションを購入し、対価として銀行にコールオプションを売却するものであり、日本で一般的な通貨オプション契約とは購入と売却が反対である。 本件契約では、相互にプレミアムを別途支払わない(ゼロコスト)代わりに、ノックイン条件が成就した場合に2倍のレバレッジ条件が付加されている。
2008年、約25%のウォン安ドル高となり、被告のコールオプションの行使により、原告はドルを相場より安値で被告に売らなければならず、約110億ウォンの損失を被った。

判決内容

原告の主張のうち、約款規制法違反または不公正な法律行為として無効、欺罔または錯誤による取消については退け、適合性原則違反については判断しなかった。
説明義務違反に基づく損害賠償請求については、①説明義務の程度について、金融投資商品の仕組みが複雑でリスクが高いほど、また投資者と金融機関の間にお ける情報の非対称と専門性の差異が大きいほど、説明義務はより高い精度で要求されるとし、②説明義務の履行の程度について、当該商品のリスクの内容、リス クが現実化する要因・条件、投資者が得られる利益と負担するリスクの具体的内容・発生原因、他の商品との利益及びリスクの比較、といった、投資者自身の理 解と直接的に関連がある主要な内容については、投資者がその商品を販売する金融投資業者の認識とほぼ同じ水準で認識できる程度に説明しなければならないと した。また、③説明義務違反の立証責任について、銀行業監督業務施行細則の規定を根拠に、金融機関側に説明義務を履行したことの立証責任があるとした。
その上で、原告が本件契約により売買するオプションの価格や手数料を知ることができなかったこと、被告が提供したシナリオ分析と損益構造のグラフからは、 原告が損失の危険性を具体的に認識できたとみることは困難なこと、被告は本件契約の行使価格に容易に到達する可能性があることを当然予想すべきであったの に、過失により認識できず、説明もしなかったこと、被告の過失により原告が一方的に損害を受け、被告は利益を保有していること(カバー取引の主張は原告に 対抗できないこと)から、被告の認識とほぼ同じ水準で認識できる程度に説明したとみることは困難として、被告の損害賠償責任を認めた。

報告者コメント

  韓国では輸出業者がウォン安ドル高により損失を被っている。日本では輸入業者が円高ドル安により損失を被っている。しかし、為替リスクヘッジを理由も しくは名目として、銀行が中小事業者に、説明不尽のまま通貨オプション取引に引き込んで損害を与えている、との問題本質は同じである。
本件契約が原告と銀行との相対の取引であるということが、結論に影響を与えたと考えられる。以 上